グラスを
まっすぐに保たれていた
東京で過ごした4年間。文化、商習慣、そして日本における関係性の築き方について、多くを学ばせていただきました。とりわけ、わたくしの中に深く残っている瞬間がございます。
東京での最後の夜、親しい友人である丸山信之さんと過ごしました。それまでの数年間、ご一緒に過ごした夜は数え切れません。寿司、語らい、そして数え切れぬほどのビール。日本では、お酒の席で互いに注ぎ合うことが礼儀です。「お酌」と呼ばれる、小さな盃と心配りの行為。
長い時間を共に過ごす中で、わたくしはあることに気づいておりました。わたくしが丸山さんにビールをお注ぎする際、丸山さんは時にグラスを傾けてくださり、また時にはまっすぐに保たれていたのです。
その最後の夜、丸山さんはグラスをまっすぐに保たれていました。一方の手にタバコ。もう一方の手に、揺るがぬグラス。
わたくしは、その理由をお伺いしました。
私はグラスを傾けていた。
こぼされるかもしれない、と感じたから。
──だが今夜は、君は、ここにいる」
丸山さんは続けられました。
「あなたは注意深く、心を込めて、注いでくれている。だから今夜は、わたしはあなたを信頼している」
その教えは、それから今に至るまで、わたくしの仕事の核となっております。
日本において、信頼とは語られるものではありません。観られるものです。小さな瞬間に積み上げられ、存在感と意図によって示されるものです。信頼は、グラスをどう持つかによって与えられるものであり、その仕草について語る言葉によって与えられるものではないのです。